男子校文化と演劇と

書評

福岡で石を投げると、福大卒か大濠卒にあたる。
なんて言われることもある。
大濠高校出身で福大卒の私も、社会に出てどれほどの同窓生に遭遇しただろうか。

同じ福大卒というだけで親近感がわき、
同じ人文学部卒となると稀少な仲間に出会えたことに歓喜する。
さらには文化学科という説明がややこしい学科卒の同士に出会えた日には、
その場で濃密な人文トークを繰り広げたくなる衝動に駆られる。

一方で、大濠の卒業生と遭遇した場合である。

その瞬間、我々の脳裏には
あの360度男子に囲まれた教室で過ごした濃密な日々がよみがえる。

我々は一瞬で思春期まっさかりの男子高生に戻り、
世代を超えて兄弟となって語らうのだ。

それほど、「男子校・大濠」で過ごした日々は強烈だったのだろう。

男子校というと、悲惨(?)な青春時代をイメージされがちかもしれないが、
私自身は、とても楽しかったし、男子校・大濠でよかったと心から思っている。

男子校は共学校とどう違うのか?と語りだすと長くなるが、
今回お伝えしたいのは、
そんな特殊な男子校・大濠の環境から、
稀代の演劇家が世に送り出されたということだ。

劇団☆新感線の主宰者であり演出家の
いのうえひでのり氏である。

先日、大濠高校同窓会の70周年記念誌を制作するにあたり、
ありがたくもインタビューをさせていただく機会に恵まれた。

いのうえ氏はインタビューのなかで、
「面白くなければ容赦なくブーイングをあびせる男子高生たち相手に、
自分たちの芝居がウケた経験が、今の道につながっているのかもしれない」
と語ってくださった。

そんな演劇界の奇才・いのうえひでのり氏をインタビューさせていただいたご縁とあわせて、
今回は劇団☆新感線にまつわる1冊を紹介したい。

 

細川展裕『演劇プロデューサーという仕事 「第三舞台」「劇団☆新感線」はなぜヒットしたのか』(2018年、小学館)

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2017年に開業された、世界で2番目の360度回転シアター、IHIステージアラウンド東京。この次世代型の劇場のこけら落とし公演を担ったのが、劇団☆新感線である。いまや公演チケットを入手するのも困難といわれる、日本を代表する劇団のひとつとなった新幹線。その人気を支えるのは、劇団の主宰で演出家のいのうえひでのり氏だが、一方で劇団がこれほど押しも押されもせぬ存在になった背景には、本書の著者である演劇プロデューサー・細川展裕氏の手腕があった。

1985年、当時急成長を遂げていた劇団・第三舞台のプロデューサーとして演劇の世界に入った著者は、時代の変化とともに、「芝居で飯が食える世界」、そして「新しい芝居のスタイル(システム)」を築き上げてきた。「売れている人はテレビ、こだわっている人は映画、売れていない人は演劇」と言われていた80年代。その価値観はこの40年で変化を遂げ、演劇市場は今や2000億円を超えるまでに成長した(2019年)。

「テレビでは見れないもの、得られない体験」を求めて舞台に足を運ぶ人がいるのは、今も昔も変わらないかもしれない。しかし、その裏でなにが起こっていたのか。演劇人たちの楽屋にお邪魔するような楽しさを感じながら、演劇界の変化、時代の変化を感じさせてくれる一冊。

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