疫病からのStand Up & Fight

書評

10万人から3万人へ。
この数字が意味するところはなんだろうか。

正解は、経済的混乱とペストによって減少した、14世紀のイタリアの都市・フィレンツェの人口である。
交易が盛んになり、商人たちの移動が「グローバル化」した14世紀。ペストはヨーロッパ全土で猛威をふるい、多くの街では人口の3割が亡くなったという。街によっては5割から7割の人たちがペストによって亡くなったと言われているが、なかでもフィレンツェが受けた打撃は、二大銀行の倒産という経済的混乱と相まって甚大であった。

しかし、ペストによって多数の死者を出したイタリア・フィレンツェは、ただでは終わらなかった。

「文芸」を武器に、ふたたび立ち上がったのだ。
というわけで今回は、ペストを乗り越えて現代に受け継がれてきた絵画の歴史を学べる本をご紹介したい。

田中靖浩『名画で学ぶ経済の世界史 国境を越えた勇気と再生の物語』(2020年、マガジンハウス)

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ダ・ヴィンチ、レンブラント、ルーベンス、モネ……。西洋美術に詳しくない方でも、その名前や絵は見聞きしたことがあるだろう。現代に生きる我々は、美術館をはじめインターネットや書籍を通じて、数々の名画を時代も国境も越えて鑑賞することができる。それはとても恵まれていることである一方、ときに「絵画の文脈」を忘れてしまいがちだ。なぜイタリアでルネサンスが興り、フランスが絵画大国になったのか。また、芸術家も霞を食べて生きることはできない。美術は経済とセットで発展してきた歴史がある。本書では、「なぜこの絵が誕生したのか」という、ルネサンス以降の美術史の変遷を、経済的な観点と照らし合わせながら読み解いていく。

ツアー仕立てに構成されている本書を読めば、ルネサンス期のイタリアにはじまり、オランダ、フランス、イギリスを経てアメリカに至るまで、まるで世界の美術館をガイド付きで案内されているような感覚を覚えるだろう。そのなかで見えてくるのは、連綿と紡がれてきた人類の美術にかける情熱はもちろん、絵画が経済発展のカギとなり、幾度も逆境からの再生を担ってきたという歴史である。ルネサンスの「文芸復興」が意味するのは、古代ギリシャ・ローマ美術の復興だけでなく、ペストの流行により壊滅的な被害を受けたイタリアの再生をも意味している。

現代においても、新型コロナウイルス感染拡大による世界的な大打撃からの「復活」は、美術が担っているのかもしれない。

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