ふるさとの
尾鈴のやまのかなしさよ
秋もかすみの
たなびきており
(若山牧水)
現代でも短歌雑誌で愛誦歌のアンケートをとると、
最上位にならぶほど根強い人気を誇る、
歌人・若山牧水の代表歌のひとつである。
例年お世話になっている、
宮崎県郷土先覚者漫画。
今回は建てられた歌碑の数およそ300基という、
圧倒的な人気を誇る歌人・若山牧水を取り上げさせていただいた。
恥ずかしながら、牧水のことは名前程度しか知らなかったが、
漫画制作のために取材と資料の読み込みを進めていくうちに、
ぐいぐいとその魅力に引き寄せられていった。
牧水は宮崎県・日向市の出身であるが、
延岡の学校で学んでいたこともあり、
日向市と延岡市では特に愛されている。
延岡出身の友人に
「今年度は若山牧水を漫画化する」と語ると、
「延岡はあっちに行っても、こっちに行っても牧水だらけ!」と
興奮気味に話してくれた。
なんの歌だったか忘れてしまったが、
その場で牧水の歌を暗誦してくれ、
牧水愛がしっかりと地域に浸透しているのだなと
しみじみ思ったのが思い出される。
さて、そんなわけで今回は、
短歌県みやざきに移住された、
俵万智氏の本をご紹介したい。
俵万智『考える短歌 作る手ほどき、読む技術』(2004年、新潮新書)
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新元号「令和」の発表以来、大宰府の梅花の宴がにわかに注目を集めている。と同時に、短歌がつむぐ三十一文字(みそひともじ)の世界にも関心が高まってきているのではないかと思う。
かく言う私もその一人。ちょうど、詩や歌のもつ力や魅力に興味がわいていたところだったので、「短歌のひとつでもたしなめる教養人になってみたいものだ」と思い、本書を手に取った次第だ。そして本書は、そんな思いに見事に応えてくれる一冊であった。
なぜ人は短歌を詠むのか。「短歌は、心と言葉からできている」とは本書の言だが、短歌には「心のゆらぎ」が込められている。そしてその心のゆらぎを伝えるため、あるいは残していくために、歌は詠まれてきたのではないだろうか。「言葉を制限すること」は、創作の足枷になるように思われる。しかし、実際には逆で、言葉に制限があるからこそ、手軽に創作することができ、自らの心のゆらぎを、より正確に表現できるのではないかと思う。そして、より正確にその心のゆらぎを伝え、残すために、言葉の技術が必要となってくるのだ。
本書は、短歌の添削と鑑賞を通して、言葉の技術によって歌の印象がどれだけ変わるのか、そして名歌はなぜ味わい深いのかを教えてくれる。短歌に限らず、文章表現技法の参考書としても、大変役立つものであった。短歌の味わい方を学びたい方や短歌をこれから詠んでいきたいと思う、短歌初心者の方はもちろん、情緒的な文章を書くための技術を学びたい方にもオススメの一冊であった。
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「白鳥は 哀しからずや 空の青 海のあをにも染まずただよう」(若山牧水)
空の青色にも、海の青色にも染まらず漂う、真っ白な鳥は寂しくないのでしょうか。
素朴な自然の風景と、牧水の青春の寂しさを重ねたこの歌は、
牧水の代表歌のひとつとして今でも広く人々に愛されている。
今回の取材を通していろいろ気に入った歌はあったが、
なんだかんだで、この歌がいちばん気に入っている。