世界三大サーカス

書評

「世界三大サーカス」と称されるサーカス団がある。
ひとつは、ロシアのボリジョイサーカス。
もうひとつは、アメリカのリングリングサーカス(2017年に解散)。
そして三つ目が日本の「木下大サーカス」である。

新型コロナウイルス感染拡大による緊急事態宣言が発令される直前。縁あって、ちょうど福岡にやってきていた木下大サーカスを見に行くこととなった。おそらく人生初のサーカス鑑賞だったと思う。

木下大サーカスを見に行ったことがなくても、広告等を通じてなんとなくその存在は知っていた。しかし、まさか世界三大サーカスに数えられるほどの歴史と観客動員数を誇っていたとは、想像していなかった。

今回ご紹介するのは、そんな木下大サーカスの第一部と第二部の合間に売店を物色していて見つけた一冊。

山岡淳一郎『木下サーカス四代記 年間120万人を魅了する百年企業の光芒』(2018年、東洋経済新報社)

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カナダのサーカス団、「シルク・ドゥ・ソレイユ」が1992年に日本で初公演を行って久しい。かつてない前衛的なショーに日本中が衝撃を受け、平成生まれの世代にはサーカスといえばシルク・ドゥ・ソレイユをイメージする方も多いだろう。

しかし、である。日本には、シルク・ドゥ・ソレイユの倍以上の歴史を誇る、「世界三大サーカス」のひとつがある。それが四代にわたって続く100年企業、木下大サーカスだ。先日、私も木下大サーカスの福岡公演に足を運んだ。いわゆるステレオタイプ的なサーカスのイメージが凝縮され、「これこそサーカス」と不思議な既視感を覚えたが、次から次にテンポよく繰り広げられる演目の数々に目を奪われているうちに、あっという間に終演を迎え、あまりの楽しさに驚いたものだ。

昔ながらのサーカスの良さを残したまま、近代的なエンターテイメントに見事に昇華された木下大サーカス。しかしその裏ではやはり、文字通り血のにじむような研鑽、営業努力、経営改革があった。経営者の木下一族が貫き通してきた「家族」としての温かさ、そして何が何でもサーカスを存続させるという「気概」に支えられ、木下大サーカスは100年以上圧倒的な集客力を保持し続ける近代的な「企業」として成長したのだった。波瀾万丈を乗り越えてきた木下大サーカスは、世界でも類をみない、多様性を秘めた大家族であり企業なのである。

サーカスという興行の世界の歴史と裏側を知る楽しさはもとより、企業経営のためのヒントにもなる本書。木下大サーカスを見に行かれた際は、ぜひ本書の購読もおすすめしたい。

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