琉球の風をもう一度

書評

先日、痛ましいニュースに目を疑った。
沖縄の世界遺産・首里城が火災によりその大部分が焼失するという、ショッキングなニュースだ。中学生の頃、修学旅行で訪れた想い出の地でもあるので、なおさらショックであった。

14世紀頃に創建されたという琉球王朝の居城、首里城が焼失するのはこれで二度目である。

一度目の焼失は、太平洋戦争。
沖縄戦に際し、日本軍が首里城の地下に司令部を置いたことにより、アメリカ軍の砲撃にさらされ、焼失した。

戦後に再建された首里城は、1993年に放送されたNHK大河ドラマ「琉球の風」の舞台となり、2000年に「琉球王国のグスク及び関連遺産群」として世界遺産に認定される。

そんな沖縄のシンボルともいえる首里城の焼失である。
県民の皆様の落胆は察するに余りある。
しかし、一刻も早い再建を願う一方で、今回の焼失を機に遺跡を再調査をすることも検討されている。というのも、以前の調査は不十分な部分もあり、今回の焼失・再調査が首里城のルーツを解明し得るのではという声があがっているのだ。

再調査をすれば再建は遅れることになるが、再調査から得られる新たな発見にも期待が寄せられる。
令和の時代に、どのような「琉球の風」がそよぐことになるのか。
新時代の琉球の風を待ちわびながら、今回は沖縄出張の際に手に入れて読んだ本を紹介したい。

上里隆史著『海の王国・琉球 「海域アジア」大交易時代の実像』(2018年、ボーダーインク)

※数字は執筆当時(2018年8月末)
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昨年、沖縄の入域観光客数がはじめてハワイを抜いて、939万人に達したという。世界遺産「琉球王国のグスク及び関連遺産群」の中心的な構成資産である首里城も、年間200万人以上が訪れる主要な観光地として定着してきた。その首里城が築かれた、古琉球時代、すなわち12世紀に琉球王国が成立してから、1609年の薩摩侵攻までの時代。琉球王国が独立国として隆盛を極めた時代を、「海域史」として紐解いたのが本書である。
沖縄を訪れる日本人観光客はよく、「外国みたい」と語る。実際に、気候も雰囲気も、語られる言葉や文化も、どちらかというと東南アジア、台湾や中国に近い印象を受ける。まさに、日本語が通じる外国と言っても過言ではない。実際に、沖縄に住む人々も、うちなーんちゅ(沖縄人)、やまとんちゅ(大和人)と区別してきた歴史があるし、現在も郷土愛的ではあるが、その感覚は残っているようだ。
そこでよく取りざたされるのが、「沖縄は日本か中国か」という議論。琉球国は、たしかに中国の影響を色濃く受けており、中国の存在なくして琉球史を語ることはできない。一方で、沖縄には日本の原型、古層があるともいわれてきた。日本人の祖先は沖縄からやってきたのは確かである。そして、日本と琉球もまた古来より交流を重ね、文化的にもDNA的にも融合しているのだ。
琉球国とはなにものか。それを紐解く鍵が「海域史」であり、本著を読めば琉球国の独自性が浮き彫りになっていく。

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ちなみに、沖縄には地元の出版社が多数あり、県産本の出版が盛んだ。
以前、仕事で度々沖縄を訪れた際は、書店で沖縄県産本を吟味して買い込むのが楽しみのひとつであった。(前田)

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