地方の出版社にできること

梓のつぶやき

 GWもあっという間に終わってしまいましたね。蒸し暑くなってきて、いよいよ季節が夏に向かいつつありますが、皆様いかがお過ごしでしょうか。

 さて、私はGW中に長崎の島原半島を旅行して参りました。1日目は雲仙、二日目は南島原→島原というコースです。
 雲仙と言えば雲仙普賢岳、温泉地、そして避暑地としても有名です。私が行ったときは霧が出ており、町中に入るとバスに乗っているのに霧に紛れてわーっと硫黄の匂いが……とても旅情の湧く瞬間でした。
 雲仙は、日本で初めて国立公園として登録された土地です。私の目的は、そんな土地で昭和10年に創業した「雲仙観光ホテル」というクラシックホテルの見学に行くことでした(お値段の関係で宿泊はしていません……)。

 長崎の奥座敷とも言われる雲仙温泉は、海が近い高地にあり、泉質にも恵まれ、古くから外国人避暑地として親しまれてきたそうです。みずみずしい並木に挟まれたアプローチからホテル正面を臨むと、スイスのシャレー様式を取り入れたというかわいらくしも上品な建物が出迎えてくれました。
 船をイメージしたという内装も独特で、ロビーは横に長くまるで半地下のような不思議なつくり。しかし外光がとても自然に取り入れられており、とても柔らかく温かい印象です。なにより、玄関を入ってすぐ大輪の花が活けてあるのがなんとも鮮やかで美しかったです。
 バーやダイニングも見学させてもらったあと、私はロビーつきあたりの書を見に行きました。大きく「博愛」とある書には、「橋本先生」という献辞と「孫文」という署名が入っています。ああ、孫文と交流があったのだな。事前に読んだ本の中の、海外の賓客を長く迎えてきたこの地では、特に上海から客が多かったのだという記述を思い出し、私はしばし、この土地の歴史に浸るような気持ちになりました。


 さて、翌日訪れたのは「島原の乱」の最終決戦地、原城跡です。江戸時代、徳川家光の治世に起こったこの一揆で、キリシタンたちは3カ月におよぶ籠城戦の末、幕府軍に敗れます。この戦いで亡くなった人の数は、一揆勢、幕府軍合わせて4万人とも言われています。
 しかし、そんな血なまぐさい戦いがあった場所とは思えないくらい、原城跡は美しい場所でした。私が訪れた時、そこでは新緑の季節のしたたるような緑と三方を海に囲まれた見晴らしのいい高台で、人々がのんびり城跡を散策していました。
 原城跡には、ふつうのお城に見られるような本丸や城門、堀などはありません。ただ、かつての城を形作っていた城壁や石垣が崩された跡が残っているばかりです。なぜ崩された状態なのかというと、再びこの城が一揆に使われないよう、幕府が徹底して破壊したためなのだそうです。
 この日は素晴らしいお天気で、その崩れた城壁の縁に立ってあたりを眺めると、青い海がきらきらと輝いていました。キリシタンたちも、この美しい海を眺めながら生活をしていたのでしょう。私はその場で写真を撮り、城跡を下りていきました。

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 私は地方の旅行が好きです。どんな土地にも歴史があり、その物語に触れると心が満たされます。
 こうして幸運にも出版社、それも地方の出版社に勤めている今、さてでは自分に何ができるのだろうと時々思います。
 入社してまだほんの少ししか経っていませんが、歴史に関わる多くの書籍に触れ、その作成のお手伝いをすることができました。しかし、まだまだ何かができるのではないか?とも思います。

 そんなことを考えつつ、仕事に追われる毎日です。
 梓書院では古代史雑誌『邪馬台国』はもちろん、歴史に関する本、地方自治体と協力して制作したその土地の偉人の漫画本など、充実したラインナップがそろっています。九州偉人マンガは毎週金曜日更新です。ご興味ありましたら、ぜひ一度覗いてみてください。

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