騎士と城とタワー積み

書評

活字離れ、出版不況が叫ばれて久しい。
1996年にピークを迎えて以来、右肩下がりを続ける出版業界。
電子ブックやコンテンツビジネスの市場拡大により、近年、市場全体としては横ばいから前年比プラスに好転したものの、出版社の倒産、雑誌の廃刊、書店の閉店は依然として続いている。

そんななか、ひとつの希望ともいえる出来事がおきた。
本の力、書店員の力、書店の存在意義を再認識させてくれたこの事例。
話題の本を即刻予約注文したひとりとして、ご紹介したい。

 

ハインリヒ・プレティヒャ 著/平尾浩三 訳『中世への旅 騎士と城』(2010年、白水uブックス)

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ゲームやアニメ、小説や映画の向こうに広がる、西洋の騎士世界に憧れを抱いたことがある方は少なくないだろう。かく言う私も、剣と魔法の世界に胸ときめかせていたクチの一人である。そんなあらゆるファンタジー作品の背景には、1982年に初版が刊行された本著の存在があった。

元高校教諭のハインリヒ・プレティヒャによって1977年に記された本著は、中世騎士世界を舞台にした作品の参考文献として、長らく世界中で読み継がれてきた。そんな名著であるが、日本で最後に新装版が発刊されたのは2010年。良著ではあるものの、一般的な「売れ線」ほど需要が見込まれず、長らく絶版状態が続いていた。そこに光を当てたのが、東京は神保町にある書店、書泉グランデである。独特の選書と企画でファンから根強い人気を誇る同店が、版元と掛け合い、「すべて買い取るから」と、300冊限定で重版したところ、瞬く間に完売。その一部始終がSNSで拡散されるや否や、最終的には1万部を超える予約注文が舞い込んだという。まさにSNS時代を象徴するような出来事だが、書店員の目利きと情熱があってこその復刊だったということも忘れてはならない。

肝心の内容はというと、丁寧でかつウィットに富み、まるで中世ヨーロッパを旅しながら騎士たちの生活感を感じることができるような、名著の名に恥じぬ充実ぶり。童心を思い出しつつ、歴史的好奇心を満たし、人類学的な見地も感じさせてくれる一冊だ。再び絶版になってしまう前に一読をお勧めする。

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SOW先生がTwitterに投稿された、書泉グランデの「タワー積み」

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