エンターテイメントと歴史認識

梓のつぶやき

今年もあっという間に12月となってしまいました。気が付けば街には鮮やかなイルミネーションがあふれ、お花屋さんにはポインセチアが並び、とクリスマスの気配が迫っていますね。

私は年末までに片づけなくてはと思うことがありすぎて、今から震えております……皆様はいかがお過ごしでしょうか。

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さて、今年一年を振り返ると、楽しい読書がたくさんあったなと思います。しかし、そんな中でも特に「ハマったな!」と思える漫画がありました。その漫画とは、『ゴールデンカムイ』(ヤングジャンプコミックス、集英社)です。
読み始めたのは今年からなので、完全なにわかファンなのですが、本当に夢中になった漫画でした。つい先月まで、福岡アジア美術館にて「ゴールデンカムイ展」があり、こちらも大盛況でしたね。

おおまかなあらすじは、明治時代(日露戦争後)の日本・北海道を舞台とした冒険活劇ものです。
日露戦争の帰還兵・杉元と、アイヌの少女・アシㇼパが協力し、かつてアイヌが隠したといわれる金塊を探すというストーリーが主軸となっています。
しかし、その金塊を隠した人物は、その在りかをなんと24人の囚人の体に暗号で刺青(いれずみ)として彫ったのでした。杉元とアシㇼパは、同じく金塊を狙う陸軍第七師団・鶴見中尉の部隊と、かつて新選組の鬼の副長として恐れられた土方歳三(実は生きていた!)の勢力と対決し、時には共闘して熱戦を繰り広げます。
果たして、金塊は誰の手に渡るのか!? 彼らの運命はどうなるのか!? 賑やかで熱くてハラハラして涙する、手に汗にぎる怒涛の展開に心を奪われっぱなしでした。

そしてもう一つ、私が面白いなと思ったのはこの漫画が明治時代の北海道を舞台としているところです。
日露戦争というと、日本がロシアに勝利した、いわゆる日本の近代化を象徴する戦争というイメージが強いと思います。この戦争で日本は欧米列強に並ぶほどの力があると世界に認知された、つまり「偉大な明治」像とセットにして語られることが多いと思うのです。
しかし、この物語はその日露戦争「後」の世界、それも開拓時代の北海道を描くことで、これまでのステレオタイプな歴史観とは違う物語を展開しています。日露戦争の帰還兵たちを描くことにより、彼らが戦争後どのような思いでどんな生活をしているかという部分が垣間見られますし(それは必ずしも豊かな生活ではありません)、アイヌの少女を通して、日本に暮らしている少数民族の生活や文化が鮮やかに描かれています。

もちろんこの漫画はフィクションなので、歴史のすべてが描かれているわけではありません。描かれていることを丸呑みにしてはいけないと思いますし、逆に「描かれていない」部分もたくさんあるのだと思います。
しかし、多種多様な登場人物がそれぞれの願いや思いを胸に戦う様子のその背景に、歴史的なものがあることを感じさせます。私は彼らに感情移入すると同時に、彼らが背負っているもの、彼らがそうせざるをえない何かを感じ、なんて世界は複雑なんだろうと思いました。

おおげさだと思われるかもしれませんが、現代の私たちも、知らず知らずに歴史の影響を受けているんだろうなぁと思います。
フィクションは現実ではないのだから、歴史と生活は切り離して考えるべきだ、という意見もあるでしょう。しかし、歴史を学ぶことで見えてくることも多いと私は考えますし、そのために自分も何かができたら素敵だなぁと思います。

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そんなことを考えつつ、今は『アドルフに告ぐ』(手塚治虫)を読んでいます。やっぱり漫画って面白いですね。

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