『光る君へ』が描いた刀伊の入寇 平安時代最大の対外危機(1)

歴史ライター・豊田滋通
大宰府政庁跡

目次

(1)出色の大河ドラマ

豪華衣装と綿密な時代考証

NHK大河ドラマは1960年代以降、当時の世相をも反映する国民的ドラマとして定着してきたが、近年は戦国武将ものが多く、いささか辟易していた。しかし2024年は平安時代が舞台、しかも主人公は紫式部という謎多き女性とあって、年初から期待指数が上昇。夏場、源氏物語の執筆が始まったあたりから気分はさらに高揚し、アッという間に師走に入って遂に終幕を迎えることになった。(…年末年始「まひろロス」にならないか心配だ)
このドラマは、源氏物語誕生の秘話を縦糸に、吉高由里子が演じる主人公まひろ(藤式部・紫式部)と柄本祐が演じる左大臣・藤原道長の秘められた恋や帝位をめぐる宮中の暗闘、貴族たちのきらびやかな暮らしと没落の悲劇などを極彩色で描いている。
大石静の巧みな脚本で、毎回、物語の世界に惹き込まれてしまう。また、帝と皇后や宮中を行き交う公家、女官たちの華麗な衣装をはじめ、綿密に考証・再現されたセットと宮中行事の豪華さも圧巻。ドラマのメーキング番組で話題になった土御門(つちみかど)殿(道長の居館)での「曲水(きょくすい)の宴」の撮影シーンには、思わず身を乗り出してしまった。さぞかし、カネと手間がかかっただろうと、いらぬ心配をしてしまう。(…これだから平安時代をテーマにしたドラマが少ないはずだ)

多彩で秀逸な音楽の効果

さらに、妖艶なタイトルバックで流れるNHK交響楽団と反田恭平のピアノによるテーマなど、冬野ユミ作曲の音楽がドラマの世界をさらに奥深いものにしている。各回の要所で流れる音楽は、スケールの大きな管弦楽をはじめ、抒情豊かなバラード風や軽快なジャズ、バッハを思わせるシブいモノローグなど多種多様。いわゆる「劇伴」の域を超え、サントラCDで音楽だけを聴いていても飽きることがない。
というわけで、歴代大河ドラマの中でも久々に高得点を付けてしまったこのドラマだが、終盤に来て舞台が京の都から西国・大宰府へと移り、まひろの足が九州に入ったことでこの一文を書いてみようと思った。
きっかけは、第46回でテーマとなった「刀伊(とい)の入寇(にゅうこう)」である。

(2)古文書に残された史実に続く

(歴史ライター・豊田滋通)


【筆者略歴】
豊田滋通(とよた・しげみち)
1953年・福岡市生まれ。1975年に西日本新聞社に入社、主に行政・政治分野を担当。東京支社編集長、論説委員長、監査役などを歴任。2018年から季刊「邪馬台国」などを発行する福岡市の出版社「梓書院」のエグゼクティブアドバイザー/ライター。西日本新聞書評欄で歴史・古代史関係書籍の書評を担当中。著書に『よもやま邪馬台国~邪馬台国からはじめる教養としての古代史入門』(2023年・梓書院刊)など。日本メディア学会会員。

【主な参考文献】
小右記(藤原実資・倉本一宏編・角川文庫)
古代の大宰府(倉住靖彦著・吉川弘文館)
遠の朝廷 大宰府(杉原敏之著・新泉社シリーズ「遺跡を学ぶ」)
武者から武士へ~兵乱が生んだ新社会集団(森公章著・吉川弘文館)
福岡歴史探訪西区編(柳猛直著・海鳥社)
福岡県史第1巻上冊(昭和37年)
太宰府小史(西高辻信貞編著・葦書房)
福岡県地名考~市町村名の由来・語源(梅林孝雄著・海鳥社)
悠久の歴史と万葉のロマン志賀島・西戸崎(東区歴史ガイドボランティア連絡会編・福岡市東区総務部生涯学習推進課)
地形と歴史から探る福岡(石村智著・MdN新書)
角川日本地名大辞典40福岡県(KADOKAWA)

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