遊撃する中小企業 お試し読み
7/32

まえがきがあるところまで旅をする動物なのだ。 そういう観点で、今回の15社を見ると、全社が地元のお客様と良い関係を築いている。それはとても素晴らしいことだ。商品が生まれた市場において、確かな評判を得ることはブランドの重要な基礎である。地元の人々に愛されない商品が、外の市場で評価されるわけがないからだ。 例えば、本書の中で紹介されている企業で言えば、佐賀県伊万里市の小嶋やの創業時のエピソードが良い例だ。小嶋やが目指したものは、伊万里の農産物をネット通販で売る事業であったが、同時に創業者の実家を改装して小売店舗を作った。ネットで全国に売るのに、何も伊万里に小売店を作ることはないのに、と思うかもしれない。しかし、これがネット通販のアンテナショップとして機能することになるのだ。小嶋やの小島安博代表は、これを狙ったのだ。その発想が素晴らしいと思う。 ネット店舗は取材のしようがないが、実店舗なら地元の新聞やテレビが取材できる。そして、実店舗への人の流れを作るために、国産のこだわりの材料を厳選してどら焼きを作ったところ、これが地元の人々の評判を呼び、連日行列ができ、完売となる人気店となった。それにつれて、店舗に置かれている本来の目的であるネット通販のメインの伊万里産のお茶、米、麦なども売れるようになった。そうして生まれた実店舗の評判が波及して、ネット販売に良い影響をもたらすという流れができた。 九州の中小企業にとって東京のメディアは物理的な距離も心理的な距離も遠いが、地7

元のページ  ../index.html#7

このブックを見る