遊撃する中小企業 お試し読み
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まえがきた昭和50年頃は、給料から天引きで団体旅行の積み立てをする職場が多かった。町内でも年に一度大型の貸し切り観光バスが狭い路地に入ってきて、ご近所のおばさん方が着飾りおめかしをしてにこやかに乗り込む光景が見られた。旅館は、団体旅行を受け入れる施設として大いに賑わった。そして、この団体旅行は旅行代理店が企画し、送客を担った。旅館は部屋を掃除して待っていれば団体客が泊まりに来たのである。しかしながら、ライフスタイルの変化や所得の上昇などにより、社内からも町内からも団体旅行は消えてしまった。 時代は変わり、最近では個人旅行が増え、多くの旅行客はネットで宿の予約をするようになった。旅行代理店の送客に依存し、ネットで予約を受ける準備のない旅館は団体旅行の減少とともに姿を消すしかなかった。 しかし、楠水閣は違った。この変化に対応して見事に乗り切り、今や福岡を代表する旅館となっている。退場した旅館と楠水閣と、何が違ったのだろうか。 楠水閣は団体旅行の時代に既に、お食事処を作り、部屋食を取りやめて、食事はお食事処で提供した。そして、全館リフレッシュ改装を行い、ロビーや廊下の床に畳を敷き詰めてバリアフリー化し、旅館に付き物のスリッパを廃止してしまった。スリッパを履く習慣のない外国人には特に11

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