桜、ななたび 試し読み
9/22

161 第四章 水のない桜川撃したら生還の可能性はない。なぜなら敵艦頭上に桜花を投下するのが仕事であるから、投下に成功しても敵戦闘機の追撃を受けないはずがないからである。体当たりのための機ではなく、体当たり機の運び屋である一式陸攻の搭乗員までもが特攻隊員の名簿に記載されているのはこのためである。したがって、この桜花作戦を成功させるために母機を護衛する戦闘機部隊も編成された。これが神雷部隊である。昭和二〇年三月、鹿屋基地・第五航空艦隊司令部の司令長官宇纒は、はじめて桜花を見学した。鹿屋の飛行場に昭和20年4月2日。神風特別攻撃隊(第一建武隊)の出撃直前。桜の小枝をお互いに挿しあう。死出に向かうとは思えないほど静かな時間がこの写真からも感じられる。建武隊とは桜花搭乗員が零戦に500キロ爆弾を搭載して特攻作戦に参加した際の隊名。

元のページ  ../index.html#9

このブックを見る