桜、ななたび 試し読み
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160に。昭和二〇年一月、連合艦隊から命令が下った。「第七二一航空隊は南九州に進出せよ」桜花隊が鹿児島県鹿屋基地に到着したのは一月の末である。鹿屋基地には飛行場内に一カ所桜花を格納する隠蔽所がすでに完成されていた。桜花は全長六メートル、幅五メートル。一人乗りの滑空機で弾頭部に炸薬爆弾一・二トンを搭載する。一度扉を閉めたら中からは絶対に脱出できない。桜花のみでは飛び立てず母機に抱きかかえられ、攻撃目標に近づいた地点で投下され、爆弾として体当たりする。桜花が脚力で推進できるのは約三〇秒。体当たり以外に何の攻撃も許されない、まさに翼の生えた棺であった。母機は一式陸上攻撃機である。速力は最高時速で四二六キロだが、桜花を搭載するとその重量で速力が半減する。敵機グラマンF6Fの最大速度は六一一キロ。コルセアにいたっては七一八キロである。鈍重な一式陸攻がさらにお荷物を抱えるわけだから、敵戦闘機にすれば格好の餌食であった。一式陸攻は搭乗員七名だが、ひとたび出

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