桜、ななたび 試し読み
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158才であった。だが、山岡は予科練に志願し、飛行練習生の道を選んだのである。「海軍に行ったら、給料も出る。幸江にもちゃんとした暮らしをさせてやれる」今のままの暮らしで十分だという幸江に、山岡は笑って首を振った。「俺には何もないから、とにかく頑張るしかないんだ。田畑があるわけじゃない。金もない。幸江のお父さんやお母さんにも顔向けができないじゃないか」幸江は両親の反対を押し切って山岡と結婚した。小学校長と村長のとりなしもあり、また何より二人の一途な思いと山岡の誠実な人柄に、両親も承知せざるを得なかったのである。まだ二人は一八歳であった。山岡が休暇で里帰りした際、村長の家でつつましやかな、だが温かい祝宴が張られた。一人ぼっちだった山岡に「家族」ができたのである。最初の桜花投下実験が行なわれたのは昭和一九年一〇月。山岡はその一〇月の末に結婚したのである。桜花投下実験のテストパイロットは長野一敏兵曹長である。鹿児島県出身。乙種予科練から出たベテランであった。山岡の先輩である。桜花部隊は、第七二一航空隊に属する。七二一航空隊とは、横須賀鎮守府の所管す

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