桜、ななたび 試し読み
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155 第四章 水のない桜川「山岡一等飛行兵曹は、本日南方前線基地に向けて飛び立たれました」「……そうですか」幸江はそのまま崩れそうになった。隊の仲間は言葉もない。まだあどけない面影を残していた山岡よりも、さらにあどけない少女のような妻にかけるべき言葉は見つからなかった。この幸江と名乗る少女は、今日、未亡人となるのである。それも数時間の後に。やがて、遺品が入った白木の箱と戦死公報が届けられ、これからの辛く長い人生を歩いていかなければならない。昭和20年3月21日。最初の桜花攻撃隊出撃。三橋大尉以下、桜花15機を抱いた母機・一式陸上攻撃機18機の編隊。三橋大尉は戦友の遺骨を抱いている。前年の11月、訓練中に死亡した刈谷勉隊尉のものだ。

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