桜、ななたび 試し読み
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172ません。ただ、あなたの命を奪い、私の未来を奪ったことは死ぬまで許すことができません。職争を起こした人々、人の命をあまりにも軽々しく見ていた人々を憎まないではいられません。あなたが英霊などと言われ、空に飛び立たれてもう五八年が過ぎました。あなたの笑顔は今も若いままです。私はすっかりおばあさんになり、きっと天国に行ってもあなたにもわからないかもしれません。でも、私はたった一人であなたが残してくださった息子を生み、育て、あなただけを思い、生きてきました。私がそちらに行きましたら、「よくやった」と抱きしめてください。私は今も、その日だけを楽しみに生きているのです。あなた、あなた。                            』脚注 桜花隊員は一九九名。そのうちのほとんどが戦死。昭和二一年三月二一日から八月一一日までの五ヵ月間に一〇回出撃が行われた。

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