桜、ななたび 試し読み
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168「ハイ…」差し出されたお茶を一口すすり、思わず呟くように言葉が出た。「あの…山岡荘吉はここに来たことがあるとでしょうか」「山岡さんは、夕べ…」幸江は聞き終わらないうちに、床に倒れてしまうかと思うほどの衝撃を感じた。「特攻…。特攻なんですね!」「…………」「ひどい。ひどい。ひどい…」「…山岡さんがおっしゃっていました。大切な家族がいるんだ。だから行くんだ、と。あなたのために行くんだとおっしゃっていました。卑怯者にはなりたくないと。ご立派な、ご立派なお顔でした」「…………」幸江は、テーブルに突っ伏して泣き崩れた。「立派なんて…、立派じゃなくたって良かったのに。どんなに卑怯者でも、生きて

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