桜、ななたび 試し読み
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167 第四章 水のない桜川のだろう。いつまでも涙は乾かず、幸江は途方に暮れた。鹿屋の街の中央、目抜き通りに検見崎食堂はある。幸江はその扉を開けた。特攻隊員たちが食事をする店だと聞かされたからだ。山岡が特攻志願したとは聞かされていない。幸江は山岡がそこにいるとは思わなかったが、山岡にかかわるものがあれば何でも知りたい、触れたいと思ったのである。「あの…」「ハイ、いらっしゃいませ」店の女主人は、優しいまなざしで幸江を見る。「あの、おうどんを一ついただけないでしょうか」幸江は何も食べていなかったが、空腹はまったく感じなかった。それどころか吐き気さえ襲ってきた。「無理して頼まんでもいいですよ」女主人・テイの優しい言葉に幸江はまた泣きそうであった。「海軍さんのお身内の方でしょう?」

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