木槿の国の学校 試し読み
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8まえがき今年(平成二八年)、母上野瓏ろうこ子は九十六歳になりました。七年前に脳出血で倒れ、左半身が不自由となり、施設に入居し、車椅子での生活を送っていますが、今も読書や短歌を詠むことを趣味としています。とりわけ歴史物は大好きです。また、昔の若かった頃の記憶は鮮明で、日本統治下の朝鮮で教師をしていた頃のことや終戦による引き揚げのことなど、人名やその時々に交わした会話まで実に細かく憶えています。開戦から敗戦、そして引き揚げといった昭和の激動期を生きた日本人も、高齢化が進み、その頃を証言できる人が年々少なくなっています。母もかなり高齢ですが、まだ十分に話せるこの機に、当時を生きた一人として、その貴重な体験を記録として残しておくことは何より大切であると考えました。事実を後世に伝え、客観的に検証していく上での手がかりの一つになるはずです。

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