こどもたちへ 積善と陰徳のすすめ
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21第一章 立命之学取るに足らぬ凡人と申したのです」「これは奇妙な話をお聞きしました。すると人間の一生は、天命という一定の運命から遁のがれることができるのですか」「いかにも遁れることができるのです。世の中を見ると昔から今まで、名高い人ほど天てんき機(自然の神秘)に迷いました。あなたが私の説を聞こうと思うなら、自分の我をすてて、心を平へい生せいに落ち着けてお聞きなさい。聖人の書いた『書しょ経きょう』という書物の中に『善ぜんを作なせば天てん之これに百ひゃくしょう祥を降くだし、不ふぜん善を作なせば天てん之これに百ひゃくおう殃を降くだす』とあります。つまり人が善いことをすれば百の祥さいわいが与えられ、悪いことをすれば天から百の殃わざわいが降ってくるのです。もし天命が一定ならば、災いや幸福も一定のはずですが、そうではありません。私たちが信仰する仏教の中には『功こうみょう名を求めると功名を得る。富ふうき貴を求めれば富貴を得る。男女を求めれば男女を得る。長寿を求めれば長寿を得る』とあります。聖人や賢者の言葉などをもちいて善い行いについていうならば、郭かくきょ巨が釜ふを、孟もうそう宗が竹たけの子こを、王おうしょう祥が鯉りぎょ魚を、姜きょうし詩が双そうり鯉を得たなどというのは、すべて孝こう行こうの心から出たものです。中国の聖人といわれた舜しゅんや禹うは身分の低い民でしたが、匹ひっぷ夫の時より仁と徳を積んで四百余州の主あるじとなったのです」といくつもの逸いつわ話を引いて、説明してくれました。

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