こどもたちへ 積善と陰徳のすすめ
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20て世の中の出世物語などを、三日三晩、寝たり食べたりすることも忘れるほど興きょうじました。その話の中で、雲谷禅師が不思議そうに私を見つめて「およそ、法門宗教の中で悟りを得るのはむずかしい。だれもが妄もうねん念(邪じゃあく悪な思いや誤った考え)がわくものだが、あなたは三日間も座談したのに少しの妄念も起こさないのはどうしてですか、そのわけをぜひ聞かせてください」といわれました。「私はむかし、占いで有名な孔先生という方から世の中の富ふうき貴、貧ひん賎せん、寿じゅ夭よう、生せい死しを占ってもらいました。ですから私の生死はすでに定まっているので変えようがないのです。したがって妄念など起こしようがないのです」と答えました。その返答を聞いた雲谷禅師はいきなり大いに笑って「今まであなたのことを、この時代では千万人に一人めぐりあえるかもわからぬすぐれた豪ごう傑けつの人かと思っていましたが、その返答を聞くと普通の凡ぼんじん人でしたか」といわれたのです。そこで、「私が凡人といわれるならさぞかしそれは理由のあることでしょう、ぜひそのわけをお教えいただきたい」と申しました。雲谷禅師は「大いに道理があります。もとより定められた命数(運命)というものは、生まれた時から死ぬ時まで決まったかたちで生まれてくるものです。しかし最善の人と極悪の人は、善悪の強さに引かれ、天より定める命数の算用とくいちがうものなのです。ただ通常の凡人だけが、この命数に縛しばられて一生を送るのです。あなたは二十年来、その孔という老人の占いにまどわされているので、

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