こどもたちへ 積善と陰徳のすすめ
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17第一章 立命之学ばむこともできず、母上の言葉にしたがいこんどは医者になるための勉強をしていました。ある時、私は慈じうんじ雲寺というお寺に立ち寄りました。その寺で一人の孔こうという名の老人に出会いました。ひげが長くいかにも徳とくを積んだと思われる風格のある老人でした。孔老人は私に向ってこういいました。「そなたは科挙の試験を受ければ、必ず及第して出世する。及第の業を開始すれば明年は必ず学校に入ることができるのに、なにゆえ及第の業をすてて医者になろうというのか。私は雲南で邵しょうこうせつ康節という大学者の正伝である占いの道(易道)の極ごく意いを得たものだ。それをそなたに伝えたいがために、はるばる遠えんろ路を訪ねて来たのだ。だから私をそなたがつれて行きたい所に案内しなさい」というのです。いかにも徳の高そうな孔老人を自宅につれ帰り、母上に孔老人から聞いた一部始終を話しました。母上は「不思議なことをいうものですね。見たところ常じょうじん人のようにも見えないので、そのお方を信じて教えを受けてみなさい」と同意してくださったのです。わが家にひと部屋を準備して親しんみ身にお世話することになりました。

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