邪馬台国123号サンプル
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11銅鐸を中心とする青銅器の銅原料には、時代とともに一定の方向に変化する強い傾向がみられる鉛同位体比の研究銅の生産地や青銅器の製作年代を、あるていど知ることができる研究に、銅の中に含まれている鉛についての研究がある。鉛には、質量(乱暴にいえば地球上ではかったばあいの重さ)の異なるものがある。鉛は、四つの、質量の違う原子の混合物である。その混合比率(同位体比)が産出地によって異なる。鉛には、質量数が、二○四、二○六、二○七、二○八のものがある。つまり、四つの同位体(同じ元素に属する原子で、質量の違うもの)がある。鉱床の生成の時期によって、鉛の同位体の混合比率が異なる。いわば、黒、白、赤、青の四種の球があって、その混合比率が、産出地によって異なるようなものである。鉛同位体比研究の重要な意味は、青銅器に含まれる鉛の混合率の分析によって、青銅器の製作年代を、あるていど推定する手がかりが与えられることである。とくに、質量数二○七の鉛と二○六の鉛との比(Pb-207/Pb-206 Pbは鉛の元素記号をあらわす)を横軸にとり、質量数二○八の鉛との比(Pb-208/Pb-206)を縦軸にとって、平面上にプロットすると、多くの青銅器がかなり整然と分類される。それによって、青銅器の製作年代など考えることができる。すなわち、古代の青銅器は、大きくはつぎの三つに分類される(図1参照)。⑴ 「直線L」の上にほぼのるもの もっとも古い時期のわが国出土の青銅器のデータはこの直線の上にほぼのる。「直線L」の上にのる青銅器またはその原料は、雲南省銅あるいは中国古代青銅器の銅が、燕の国(地図1参照)を通じて、わが国に来た可能性がある。細形銅剣、細形銅矛、細形銅戈、多鈕細文鏡、菱環式銅鐸などは、「直線L」の上にのるグループに属する。「直線L」の上にのる鉛を含む青銅器を、数多くの鉛同位体比の測定値を示した馬淵久夫氏(東京国立文化財研究所名誉研究員、岡山県くらしき作陽大学教授)らは、朝鮮半島の銅とするが、数理考古学者の新井宏氏は、くわしい根拠をあげて、雲南省銅あるいは中国古代青銅器銅とする(新井宏著『理系の視点からみた「考古学」の論争点』[大和書房、二○○七年刊]参照)。⑵ 「領域A」に分布するもの 甕棺から出土する前漢・後漢式鏡、箱式石棺から出土する「長宜子孫」銘内行花文鏡、小形仿製鏡第Ⅱ型、そして、広形銅矛、広形銅戈、近畿式・三遠式銅鐸などは、「領域A」に分布する。弥生時代の国産青銅器の多くも、この領域にはいる。

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