県民性を肴に、

書評

こんにちは。前田です。

先日、ご縁あって西南大学と宮崎県の連携講座を聴講させていただきました。

奈良大学・上野誠教授の「神と宴の古代学」、西南学院大学・尹芝惠准教授の「神功皇后と朝鮮通信使」。おふたりの基調講演に続き、宮崎県立看護大学・大館真晴教授コーディネートのもと行われた鼎談は、どれも聴きごたえたっぷりの大変すばらしい内容でした。

そのなかで、「近い文化圏間での差異こそが、その地域の特異性を見つける鍵」といった主旨のお話がありました。

例えば、韓国も日本も同じく箸を使う文化圏ですが、日本ではお茶碗などの器は手で持って食べるのに対し、韓国では器を持ち上げずに食べる。*そのため、箸だけでなく匙も一緒に提供される。

その小さな差異にこそ、それぞれの文化の独自性が見られる、と。

そんなわけで今回は、日本国内の「小さな差異」、県民性についてまとめられた、古き良き名著をご紹介したいと思います。

祖父江孝男 著『県民性 文化人類学的考察』(1971年、中公新書)

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丸善が創業150周年を記念して「名著復刊」と題した、文庫・新書の復刊企画を行っている。その第一弾として復刊された新書のひとつが、50年近く前に出版された本書である。
テレビ番組の影響もあってか、近年ではさまざまな県民本などの発刊が相次ぎ、「ご当地ブーム」のような情況が続いている。方言や名物、文化の違いなどなど、県民性の話題はいつでもどこでも盛り上がる、ひとつの「鉄板ネタ」ともいえるだろう。本書も約50年前に調査分析された内容ではあるが、今に通じる面白さであふれている。
本書の前半では、現地調査をはじめ、県人会の活動の活発さ、離婚率や犯罪率などの各種統計データに、パーソナリティ診断テスト、軍隊・自衛隊での出身地別の傾向など、さまざまな面から「県民性とはなにか」に迫っている。
そして後半では、各県ごとの県民性診断が行われていくのであるが、日本の多様性を実感するとともに、現在の行政区分ではわかりにくくなってしまった「藩の文化圏」の存在を感じられる。
県民性は一種のステレオタイプでもあり、個人差もあるだろうから、県民性を疎ましく思う人もなかにはいるだろう。一方で、パーソナリティの分析や、相互理解の足掛かりとして役立つ面もあるだろう。血液型占いや動物占いなどがもてはやされるのも、占いをひとつの指標として、自他のパーソナリティを説明するのに役立っているからだと思う。人が人を理解するための手段のひとつとして、県民性の虚像と実像に踊らされてみるのもまた一興であろうか。

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ちなみに、韓国で器を持って食事をするのが「お行儀が悪い」と言われているのは、その昔、奴隷は急いで食事を済まさなければならなかったため、器を持って食べていたことから、「自分は身分の低い者ではない」ということを示すために、器を持ち上げずに食べるようになったからだそう。儒教浸透度が高く、身分社会だった韓国の文化性を表す「小さな差異」といえそうです。

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